昔の小説で「土蔵」って出てきたら苦も無く読み進められますか?

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前回は都道府県名は小4までに漢字で書けることがMUSTについての話でした。今回は自伝的小説の紹介です。長編を苦にしないならば長編、確実に読み切れるというならばという観点で井上靖の本2冊。大正時代の貧しさ豊かさを理解できるので、歴史の学習にもつながります。どちらの小説も愛情、葛藤、努力、恋をテーマに読める作品です。

目次

1.しろばんば

「しろばんば」は、井上靖の自伝的小説で、大正時代の日常生活と少年洪作の成長を描いています。この作品は、日本の古き良き原風景を背景に、少年の目を通して描かれた傑作です。テーマは、作品の舞台である静岡県の伊豆半島中央部の山村・湯ヶ島で、秋の夕暮れ時に飛び回る雪虫(「しろばんば」)を通じても表現されています。

しろばんば(雪虫)

雪虫が大量発生したため、山が白く霞んで視界不良となっています。白いものは全て雪虫です。

あらすじ

洪作は曾祖父の妾であるおぬい婆さんと一緒に土蔵で暮らしています。周囲からは白い目で見られながらも、「自分が生き抜く道はこれしかない」という強い覚悟のおぬい婆さんからの愛情をうけます。伊豆・湯ヶ島の四季折々の中で、洪作は級友たちとの交流、叔母と教員との恋愛、そして叔母の病死、転入生への初恋、複雑な親戚や縁者との人間模様、教師の神経衰弱、そしておぬい婆さんの死を通じて工作は成長していきます。最終的には中学受験のために湯ヶ島を去り、浜松へ向かうことになります。

1.脳裏に浮かぶ情景

この作品は、伊豆の山村で過ごす少年洪作とおぬい婆さんの日常を描いています。
主人公洪作の目を通して、風景や人々の生活が瑞々しく描かれており、読者は大正時代の雰囲気に引き込まれます。

2.出会いと別れを通して大人になる洪作

洪作はさまざまな人々と出会い、別れを経験します。これが彼の成長に繋がっていきます。
おぬい婆さんとの特別な関係は、洪作の心情が豊かに描かれています。

3.素朴な文章と人物描写の秀逸さ

井上靖の文章は平易で読みやすく、細やかな描写が魅力です。
複雑な家庭環境の中で育った洪作が、おぬい婆さんの愛情を受けて健全に成長する姿が感動的です。

洪作の小学校時代の触れ合いや初恋、おぬい婆さんの死が描かれています。さき子との出会いやさき子の死が物語を通じ、最後に村を去る洪作のシーンはどう心の中で映るでしょうか。

2.あすなろ物語

あすなろ物語の「深い深い雪の中で」が「しろばんば」と時期的に重なります。井上靖自身は「あすなろ物語は創作で、しろばんばは自叙伝的小説」といっていた。「寒月がかかれば」が時期的に『夏草冬濤』と重なるので、はまったら読んでみてはいかがでしょうか。

あらすじ

天城山麓の小さな村で、血のつながりのない祖母と二人、土蔵で暮らした少年・鮎太。北国の高校で青春時代を過ごした彼が、長い大学生活を経て新聞記者となり、やがて終戦を迎えるまでの道程を、六人の女性との交流を軸に描く。明日は檜になろうと願いながら、永遠になりえない「あすなろ」の木の説話に託し、何者かになろうと夢を見、もがく人間の運命を活写した作者の自伝的小説。

新潮社 書籍詳細 あすなろ物語より

主人公梶鮎太の、幼小期から壮年期までの成長過程が、年代順に6編で書かれた物語。「明日は檜になろう、檜になろうと思いつつも檜になれない 翌檜の木の逸話」からつけられたあすなろの立ち位置はこの小説で意味付けが固まったそうだ。土蔵で祖母のおりょうと暮らす鮎太は「しろばんば」のおぬい婆さんと洪作に通じるものがあります。

感想

「あすは檜になろう、あすは檜になろうと一生懸命に考えている木よでも、永久に檜になれないんだって!それでもあすなろうというのよ。」

「貴方は翌檜でさえもないじゃあありませんか。翌檜は一生懸命に明日は翌檜になろうと思っているんでしょう。貴方は何になろうとも思っていらっしゃらない。」

あすなろ物語より 冴子のことば、信子のことば

この2人の女性のことばは、人生は成功・失敗、幸福・不幸等は絡まり合って人生がはぐくまれている印象をうけます。

私が中学生の時に、学校の先生から勧められた本です。一気読みし、勉強するきっかけになりました。当時は「克己」といことばを「努力」「根性」に置き換えて解釈していたなあと年を重ねてからしみじみと思います。どの時代であっても、若者は「何者かになりたい」と願う。しかし、その願いを叶えることができるのは「檜」のみ。ほとんどの人間は「翌檜」として一生を終える、それぞれが思い描いたようになってもならなくても。最後に、多くの「あすなろ」たちが驚異的ともいえる戦後の復興を成し遂げていく感じがあった。

どちらがあすなろの木でしょう?

ぱっと見はわかりませんね。

葉っぱを裏返すと「気孔線」という白い油のような部分があります。裏が白い部分がほとんどの場合はあすなろです。「小」という漢字を逆さまにして並べたような感じではっきりとわかります。檜は建築材として、あすなろはまな板として有名です。

入試問題ではどのような出題がされるか

主人公と、登場人物の役割、キャラクターが強く影響します。問題作成者は小説を読了したうえで、問題文として物語の一部を読んで理解させるように、問題を作成します。きちんと読み取れているかどうかが大切ですが、時代背景がある程度わかれば読みやすいです。この小説は時系列に六編で構成されています。大正、昭和初期、日中戦争期、太平洋戦争期、戦後。ひととおり歴史の勉強を終えてから読むとよいと思います。2つの作品で共通する「土蔵」とは今でいう何だろうかひっかかりなく読めると頼もしいです。また、登場人物から兄弟、親戚が多い時代であったこと等は少子高齢化と比較できる状態で知っておくべきでしょう。親子で読んだならば、「あすなろ」って誰だろうねと感想を言い合うのもいいですね。鮎太なのか、関係する女性なのか、すべての人々なのか。

個人的にはちょっと分厚いですが、読みやすい「しろばんば」、次に「あすなろ物語」を読むことをお勧めします。

前回の記事はコチラ↓

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