社会問題から読み解く「デューク」

本の紹介

前回は「戦争と平和」についての絵本を紹介しました。中学受験において、物語・小説は得意・不得意が激しいジャンルです。問題作成者の出題意図が読み取りにくいことと、文字制限の関係上、情景描写や人物像がつかみにく場合が見うけられます。今回紹介する絵本は「つめたいよるに」(理論社)所収「デューク」を底本に、山本容子さんの絵を添えた一冊。「愛情」をテーマとして紹介します。死・別れ・悲しみ・愛情・感謝等、多々切り口はあると思います。特に、最後の挿絵の表現は素敵だなと思います。問題(クイズ)を2つ書いてみましたので、親子で話し合ってみてください。社会問題としていますが、愛情や絆もそのプラスの一環として紹介しています。

デューク 講談社 文・江國香織 画・山本容子

目次

あらすじ

一言でいえば、「死んでしまった愛犬が、人間の姿を借りて大好きな飼い主にお別れを告げにくる。」という内容です。犬好きの私にとっては胸が締め付けられる作品です。主人公が愛犬デュークを失い悲しむ中、道行く人々の目も気にせず泣き続ける。そんな時、不思議な少年が現れ、なぜ彼が現れたのか、デュークを思い出させる情景や最後に感謝の気持ちを伝え、涙ながらに去っていく。言葉や挿絵の力を感じさせる感動的なシーンは必読・必見です。

「僕とても、愛していたよ」淋しそうに笑った顔がジェームス・ディーンによく似ていた。

デューク 講談社 文・江國香織 画・山本容子

挿絵の力

挿絵は、物語をビジュアルで表現する重要な手段です。文章だけでは表現しきれない場面やキャラクターの姿を描き、読者にイメージを提供します。挿絵は物語の雰囲気や舞台を伝え、読者を物語の世界に文字以外の側面で引き込みます。また、特定のシーンや登場人物の感情を強調し、物語を理解しやすくします。特に子ども向けの絵本や小説では、挿絵が文章理解を促進する役割を果たします。挿絵は作者の文体やテーマに応じて様々なスタイルで描かれますが、その目的は読者に物語をよりリアルで感情豊かに体験させることです。

中学入試における主題・心情描写

実はこの作品はセンター試験で過去に出題されています。もし私が受験生だったら、感情移入してしまい、問題が解けなかったかもしれないなと思っていました。問題(クイズ)を2つ作成しました。解答例は参考までにしてください。子どもが答える場合は、青線は「重ねて表現する」練習が必要ですので、熟語のどちらかが入っていればよいです。

①「少年」は何のために「私」の前に現れたのだと思いますか?

例)自分(デューク)の死を深く悲しんでいる「私」に、今までの感謝と愛情を伝えようとするため。

「僕もとても、愛していたよ」というセリフ、その後の「淋しそうに笑った顔がジェームス・ディーンによく似ていた」に注目します。「僕も」の「も」というのは「あなたと同じように…。」という意味です。つまり、「私」が愛してくれたことに感謝をし、自分も愛していたよ、と伝えているのです。悲しみに暮れている「私」を慰めたり、励ますという解釈にもなります。

②「私はそこに立ちつくし、いつまでもクリスマスソングを聴いていた」から、その時の「私」の気持ちを説明しましょう。

例)まだいろいろな状況を理解できないながらも、少し温かく明るい気持ちになっている。

「立ち尽くしている」のは、まだ完全に前に進めてはいないのでしょう。しかし、「クリスマスソング」などの明るい情景や雰囲気から、悲しみのどん底にいる状態ではありません。「デューク」との別れの悲しさを受け止めつつ、楽しい時間を思い返しながら、少し温かく明るい気持ちになっていると想像できます。

最後の挿絵を言葉にできるとよいです。

その他、落語についてのシーンもありますが、そもそも落語とはどういうものかを理解しているかは重要です。落語がどういうものかをあまり理解できない場合でも、デュークが落語を好きだったという思い出から演芸場と落語の関係は何となく捉えながら読み進める必要があります。

繰り返し述べますが、「親子の10分(これは私の個人的な造語ですが)」、絵本1冊10分だとしても貴重な経験。筆者が伝えたいことは小説や物語と同じです。

前回の記事はコチラ↓

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この記事を書いた人

中学受験国語の1:1オンライン指導、ブログを運営しています。

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